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【第1部】 第8話 祖父とヘンリー①

last update Last Updated: 2025-06-09 17:01:08

「おかえりーっ」

「おう流華、お土産あるぞ」

 学校から急いで家へ帰った私の目は、点になっていた。

 玄関へ入った途端に、楽し気な声が聞こえてきた。私はすぐにそちらへと駆けていく。

 すると、とんでもない光景が目に飛び込んできたのだ。

 居間で、ヘンリーと祖父が仲良くお酒を酌み交わしている。

 あ、ちなみにヘンリーはジュースだ。

 机を挟み、向かい合わせに座った二人は酒とつまみを前に、私に微笑みかけてきた。

「いったい……どういうこと?」

 私はこの事態がなぜ起こっているのかわからなくて、目をしばたたかせた。

「私が説明いたします」

 いつの間にか背後にいた龍が、私にそっと耳打ちしてきた。

 詳細はこうだ。

 祖父はたまたま予定より早く旅行を切り上げ、家へ帰還した。すると、家の中をうろついていたヘンリーに出くわす。

 はじめ驚いた祖父はヘンリーを捕らえた。しかし、ヘンリーがタイムスリップしてきたことを知ると、祖父の態度が一変したらしい。

 興味深そうにヘンリーの話を聞き、故郷のことやこちらへ来てからの感想など、根掘り葉掘り聞いていたそうだ。

 昔から祖父はそういうところがあった。

 いつも好奇心溢れた少年のような心をもち、人生に楽しみと面白さを求めている。

 きっと祖父の好奇心に、ヘンリーはマッチしたのだろう。

 それから、祖父とヘンリーは仲良く話し込んでいたそうだ。

 そこへ私が帰還した、というのが龍から聞かされた大まかな流れ。

 なるほどね……なんとなく想像できる。

 私があきれながら二人を見つめていると、祖父がとんでもないことを言い出した。

「なあ、流華よ。ヘンリーもおまえと一緒に学校へ行かせてみてはどうだ?」

「は!?」

「何を言っているのですか!」

 私と共に、龍も驚いて目を剥いた。

 祖父が突拍子もないことを言うのには慣れていたが、今回はさすがの私も驚いた。

「ヘンリーも家ばっかりではつまらんだろうて。

 流華と楽しい学校生活をエンジョイじゃ!」

 薄っすらと顔を赤らめた祖父がノリノリで拳を上に振り上げた。

「流華と一緒? なら行きたい!」

 ヘンリーは前のめりになり、祖父の手を取り握り締める。

「いや、いや、ちょっと待って! そんな簡単にっ」

 私は慌てて止めようとするが、祖父は豪快に笑い飛ばした。

「大丈夫、大丈夫! いろんな学校の手続き関係はわしがなんとかする」

「いや、まあ、そうだろうけど。そういうことじゃなくて、ヘンリーが学校に行ったら騒ぎになるよ」

「どうして? 僕、流華とずっと一緒にいたい。学校一緒に行く!」

 急に立ち上がり、今度は私の手を握り締めるヘンリー。

 その美しい瞳を私に向け、至近距離から見つめてくる。

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Comments (1)
goodnovel comment avatar
憮然野郎
ヘンリー、学校だとより目立っちゃいそうですね...
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